その後,フィールドの幾人かに質問をして,エコックとはどうやら,大きな岩らしいことがわかってきた。ドンゴ村には,そこへ行ったことのある人間はいなかったが,岩の存在そのものはよく知られていた。あのような奇妙な形で地図に出ていることからも,ある種の「名所」らしいことが推測された。
エコックは,自動車道路の終端からは遠く離れた森の中に位置している。しかし,そこまで歩いていく細い道はある。森棲みの人々はそういった道をたどり,何日もかけて遠くの村を訪問しているのだ。彼らと同じようにして,森の中に点在する集落を訪ねてみたい,私はかねてからそのような計画を持っていた。
この地域はいくつもの木材伐採会社が入っている。よく整備された幹線道路には,巨大な木材を積んだローリーが日に何十台も行き交っている。人々の生活は当然,道路の大きな影響を受ける。物資はどんどん入ってくる。換金作物であるカカオを買い付けにトラックがやってくる。伐採会社に売る野生動物の肉や干魚の需要が高まる。
そういった生活の変化も面白いが,おそらくこの地域の人々がはるか昔から続けてきたであろう森棲みの生活はどのようなものなのか,それを見てみたいという気持ちがあったのだ。またこの地域には,新たな国立公園を設定しようという動きがあり,森に住む人たちがどの程度,動植物環境にインパクトを与えているのかは,我々の調査の重要なテーマでもある。
2001年秋の調査の時,エコックの近くのマレア・アンシアン村でピグミーの調査を続けている,院生の服部志帆さんのもとを訪ねた。(服部さんのマレアでの体験については,こちらのホームページを参照。)マレアまでは最近道路が延びて,車で行くことができるようになったのだ。「この先の森の中に,おーおきな見晴らしのいい岩があるんですって」彼女はおっとりとした関西弁で言った。「エコックやろ」私はすかさず答えた。
そこで私の調査終了後,ヤウンデに出る間際に,私,服部さん,それに別の村に調査に入っている院生のYasuoka君,四方篝さんの4人でエコックを訪れてみよう,そういうことになった。