第118回「森林公園くつきの森での樹木を中心とした植生調査」

 要旨

 朽木は京都から北北東に伸びる安曇川沿いに北上した、琵琶湖の西方に位置する地域です。面積の約90%が森林であり、朽木の自然や森とそこに暮らす人々は、古くから互いに影響を与えあってきました。しかしながら、近年、過疎化や高齢化に伴う森林への手入れの減少やシカの食害により、森林の植生に変化が見られています。今回は、特に「森林公園くつきの森」を訪れ、樹木を中心とした植生調査を行い、周囲の自然環境について学びます。

 案内者

 小坂康之(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア地域研究専攻・教員) 立石和奏(京都大学大学院文学研究科地理学専修・修士課程1年)

 野外実習の概要

日時
2021年7月17日(土)
場所
滋賀県高島市朽木
参加者
18名(学部生7[文5、農1、和歌山大(観光)1] 、院生8[文3、農3、理1、ASAFAS1] OBOG1、教職員2[文1、ASAFAS1])
行程
8:30京大時計台前に集合→10:30「森林公園くつきの森」到着、朽木地域の自然環境・植生調査方法について説明→11:30班に分かれて調査方形区を設置→12:00お昼ご飯→13:00班ごとに植生調査→14:30各班の植生調査の結果を共有→15:30「森林公園くつきの森」出発→17:00帰りの道中で朽木渓谷観察→18:00京大到着、解散

 報告

8時30分に京大時計台前で集合し、車5台で朽木へ向かいます。途中、道の駅に立ち寄り、各自トイレ休憩と買い物を済ませ、10時30分ごろに「森林公園くつきの森」に到着しました。

ここで、自己紹介をしてから、朽木地域の自然環境と植生調査の方法について説明しました。

その後、3班に分かれて、植生調査を行う方形区(10m×10m)を設置しました。コンパスを使いながら、角度を90度に保ち、メジャーで正方形を描きます。植生調査に慣れている農学研究科の学生さんが、方形区をさらに4等分にしておくと、調査がやりやすくなることを教えてくれました! 

方形区が設置後、12時ごろからお昼ご飯を食べました。道の駅で購入した、栃餅を皆さんで食しました。この朽木地域では、古くから、栃の実(トチノキの種子)は食用として採集され、餅に加工して食されてきました。しかし、トチノキは山の急傾斜な斜面に生育していることも多く、現在では、地域住民の高齢化により、採集する人が少なくなっています。

腹ごしらえをしたら、いよいよ植生調査です!

方形区内に生育している胸高直径3cm以上の樹木の樹種を同定し、胸高直径を測ります。(注:胸高直径とは、ひとの胸の高さ(約130cm)の位置の木の幹の直径を指します。)樹木図鑑を使って、葉の特徴を一つずつ確認しながら樹種を推定していきます。アセビは束生に間違えやすい互生の樹木です。

この「森林公園くつきの森」には、スギ・ヒノキの人工林がありますが、一部は天然のスギが生育しています。スギとヒノキは同じヒノキ科の樹木です。葉の裏にYの字がみえるのがヒノキで、Xがサワラ、Wがアスナロです。また、スギは、葉が束のようにつくため、重さで枝が下がることから、遠目で見ると、丸い塊がついているように見える方がスギ、横に、薄く葉を広げている方がヒノキだと見分けることもできます。

樹種の同定と胸高直径の計測を終えたら、次は、樹冠投影図を描きます。樹冠投影図は、調査地域の森林構造を知る手がかりとなります。幹の位置と枝の広がりの位置を方眼紙に記録し、下の写真のように線で結ぶと樹冠を描くことができます。

14時半ごろに、全ての班が植生調査を終えました。班ごとに、植生調査の結果を共有していきます。

A班が担当した湿地では、樹木はわずか2種類で、林床にはワラビやコバノシイカグマというシカが好まないシダ植物が優占していました。

一方、B班が担当した傾斜面上の平坦地には、コナラが優占しているほか、シナノキ、アカシデ、ソヨゴ、キンマメザクラなど、暖温帯常緑広葉樹林と冷温帯落葉広葉樹林の中間地であることを代表するような樹木が見られました。中には、高木であるホオノキも生育していました。写真は、ホオノキの樹高を計測している様子です。なんと15m以上もの高さがありました!

最後の、尾根上を担当したC班では、ネジキとアセビ、スギの3種類が見られましたが、林床は貧しく、シカの食害の影響がひしひしと感じられました。

(集合写真の撮影時のみ、マスクを外しています。)

15時30分ごろに、「森林公園くつきの森」の管理をしているやまね館の館長さんにご挨拶をした後、集合写真を撮影し、朽木を出発しました。

京都へ戻る途中で、朽木渓谷に立ち寄りました。快晴のもと、渓谷を鮮明に観察することができました。

18時ごろに京都大学に到着し、解散しました。炎天下での巡検でしたが、皆さん、元気に帰って来ることができました。

今回は、文学部、農学部、理学部、ASAFASなど、幅広い分野から学生・教員が集まり、朽木地域の植生について、しっかりと学べた一日となりました!皆様お疲れ様でした。

京都大学自然地理研究会

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