木村大治インタビュー
ASAFAS・アフリカ専攻ホームページのリニューアルに際しておこなった
「教員インタビュー」です。
木村: K インタビュアー 安田 (2004年入学): Y
Y: それではさっそくですが,木村さんのこれまでの経歴について教えてください。
K: 京大の理学部に入学して,はじめは数学を専攻することにしていたんですが,2回生の終わり頃,こういうことをやっていてええんかな〜という迷いが生じて,どうしたらいいかわからなくなったんですね。
その頃友だちに誘われて,「近衛ロンド」(いまの京都人類学研究会)に
出入りしたりしていて,人類学なら好きなことに自由にアプローチできるのかな,
という気持ちになってきた。
それと,あまり人に話したことはないんだけど,その頃「成長の限界」とか
人口問題,環境問題がクローズアップされてきた頃で,そっちの方にも
関心があったんですが,たとえば避妊による人口抑制とか省エネルギー
ということから人口問題を考えるまえに,子供をたくさん
作ることは幸せなのかとか,まあちょっと恥ずかしいが「人間にとって
幸せとは何か」ということをきちんと考えておかなければならないんではないか,
と思った,ということもありましたね。
で,人類学をやろうと考えて,理学部の自然人類学研究室の,伊谷純一郎先生の
ところを訪ねていった。
伊谷さんの本も何冊か読んで,その文章の力強さに感動して,この人のところで
やりたい,と思い,大学院を受けたわけ。
Y: 木村さんにとって,
人類学の魅力というのは何ですか?
K: それはやっぱり,フィールドに出て
現実にものを見ていることやろうね。
他の分野の人たちももちろん一生懸命考えているけど,
「俺は現にこういうのを見た」というのは,机で考えている
人たちにはある意味ものすごく怖いことだということがある。
前に書いたことがあるけど,伊谷さんが昔,あるシンポジウムに
出ていて,「人間の男が禿げるのは男性ホルモンのせいだ」という
発表を聞いた。
で,伊谷さんはさっと手を挙げて,「チンパンジーはメスも禿げるで」
と言ったら,相手はぐっと詰まってしまった,という話を聞いたことがあります。
まあ男性ホルモンの話は正しいんだろうけど,でも「禿げるで」という
現実は迫力があるわけ。
Y: それでは
アフリカについて何か。
K: 今の人類学では,あんまり「違うことの
驚き」を語ると「オリエンタリズム」とかいろいろ
言われてしまうけど,やっぱり素直に,アフリカに行って「我々と
違うことをしている」人々に会うことの面白さがあるよな。
そういうところにどっぷりとつかっていると,逆に「俺らは何でこんな
ことをしているんだろう」ということが不安になってくる。
そこに,いろいろなことを相対化して上から見ていく態度みたいなものが
できていくんじゃないか。
僕はそこのところを,日常の相互行為に関してやろうとしているわけですが。
Y: お薦めの本とか,
尊敬する研究者は?
K: インタラクションを研究していると,
やっぱりグレゴリー・ベイトソンとかアーウィン・ゴフマンなんかは
すごいなと思いますね。
読んでいて何か頭の中がむずむずしてくる。
そういう仕事をしたいですね。
Y: ASAFASの学生に
対してどういうことを期待しますか?
K: 最近,フィールドに行って見てきたことを,
記述すればOK,という研究が多いような気がします。
「だから何なんだ? So what?」と言いたくなってしまう。
「正しい記述」と「面白い記述」は違うんだ,ということを考えてほしいですね。
まあそのためには,勉強して,これまでこういうことがわかっていて,
こういうことが問題になっている,ということを知らないといけないわけだが。
Y: 木村さんの
趣味とかは?
K: 学生の頃は茶道をやっていて,
今でも暇があればやりたいとは思うんですが,なかなかそこまで
心を落ち着かせる余裕がなくて。
妻が登山が趣味なので,子供も連れて山に登ることもあります。
子供は上の女の子がバトン,下の男の子がサッカーをしていて,
サッカーの方は「裏方コーチ」で白線を引いたりしとります。
子供を育てていく中で,時間は取られたけど,自分の研究上ずいぶん洞察を得ることも
ありましたね。
Y: だいぶ
長くなってきましたが,アフリカ専攻
についてはどう思われますか?
K: やっぱりアフリカをやるやつは癖のあるやつが
多いんじゃない?
そういう意味で面白いところだと思う。
対人的にも居心地のいいところだが,
居心地がよすぎて就職してくれる人が少ないと困るけど。
Y: 最後に
受験生にひとことお願いします。
K:
フィールドワークをしたいなら,ここに来なさい (笑)。
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