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カメルーンにおける熱帯雨林関係の調査動向

 熱帯雨林に関する一般的な調査研究動向

現在、熱帯雨林に関する調査研究に関しては、世界的なネットワークが形成され、それを通して調査研究の方向づけとそのための人的・財政的資源の配分、研究集会や印刷物の公刊等の研究成果の流通がおこなわれている。このネットワークは、保護計画の策定や実際の保護活動の実施にも関わっており、膨大な資金と人員がそれらを巡って動いている。熱帯雨林の保護にかかわる活動は、利潤を生まない、いわゆる「非営利活動」の典型であるが、一方では多くのプロジェクト実施組織や「専門家」を生みだし、現地の人びとにも「経済的影響」を及ぼしている。さらにこの同じネットワークが、森林資源の配分や環境をめぐるガバナンスにも大きな影響を与えており、いわばそこでは、熱帯雨林をめぐる科学(調査研究)と経済、行政(政治)が密接に関連した複合体をなしている。そうした意味で、熱帯雨林に関する科学的な言説は政治的意味を担っているといえる。さらに、このようなネットワークのなかで、南アメリカ(主としてアメリカが担当)、アジア(主として日本などアジア諸国が担当)、アフリカ(主としてヨーロッパが担当)というような地域割りが存在し、それにしたがって研究資源が配分されている。人類学者のFairhead とLeach(注)は、こうした状況にある熱帯雨林研究の枠組とそれをめぐる状況を”Tropical Forest International”と呼び、熱帯雨林問題に関する研究が、まさにミシェル・フーコーが言ったような「権力/知(pouvoir/savoir)」の典型を示していると指摘している。

(注)Fairhead, J. and M. Leach, 2003 ‘Sceince, Society and Power: Environmental Knowledge and Policy in West Africa and the Caribbean,”Cambridge UP

FairheadとLeachは、このような”Tropical Forest International”の枠組において設定された調査研究の重点項目として、以下のようなものをあげている。

? Listing diversity すなわち動物相、植物相の目録作成。

? Ecosystem and diversity。これは、植生の静態的な記載とクライマックス(極相)の提示だけでなく、ニューエコロジーなどの影響を受けて、森林生態系の生成・変化などの動態に関心をもつ。

? Medicinal plants and diversity。薬用植物に対する関心を示し、Indigenous herbal specialistsに対する一定の評価を与えてはいるが、「在来の科学を理解する」ことよりは、伝統薬の「科学的に有効な」な成分の検証に重点を置いている。

? Economic plants and diversity。非木材森林産物(NTFP)等の従来はマイナー・プロダクトとされてきた森林産物が、最近では「森林の持続的利用」、「木を切らずに森を利用する」ための方法として注目を集めている。これらについての情報収集。

? Conserving biodiversity through traditional hunters「伝統的」な方法で狩猟をおこなう狩猟民とその知識、組織を保護計画への組み込むための調査で、これは、自然保護と辺境部における政治的安定化の両方に貢献するものと考えられている。

以上のような点に関する調査研究が、保護団体等が設定した重点地域、すなわち、Conservation International (CI)による” biodiversity hotspots”や、WWFが設けた “eco-regions” において実施されている。 このような学術動向のなかで、日本人が、アフリカにおいて、上記の重点項目以外のテーマに関して調査を実施することには、かなりの困難が伴うことになる。第一に、国際機関などから経済的支援が得られにくいという資金調達の問題があるが、それ以外にも、現地研究者との適切な協力や、研究成果の流通とそれに対する正当な評価といった学術環境の問題がある。しかし、もっぱら”Tropical Forest International”によって必要とされたプロジェクトや、それと密接に結びついた現地政府の要請にもとづいておこなわれる援助プロジェクト等では難しいような調査も必要であり、そのなかからユニークな研究が生まれる可能性も少なくない。