たばこの葉を、男性はおもむろにポケットから取り出した。葉は畑で栽培しているものだ。たき火で残った灰のもとにちょこんと置いた。やがて葉が乾燥すると、少し触れただけでぼろぼろの状態になった。男性は、左手の平にそれをのせると、右手でこまめに押しつぶした。粉々になった葉は、最後に男性の左手におさまった。
妻はたき火の前で食事の支度をしている。大きなマチェットが、マニョックの皮をはいでいく。ナベブタを転がして遊ぶ近所の子どもたちが自動車の音を口真似して駆け抜けていった。男性の子どもは、黄色いビドンに尻をのせて、おもむろに外を見ていた。ときおり、両足のあいだからのぞくビドンの背中を、無意識にトントンと両手で打った。彼は視線をまっすぐに向きなおした。目の前には、ある研究者が木枠だけのベッドに腰を下ろしていた。さきほどから左手で支えた小さなノートに視線を落としたまま、まるでとりつかれたように何かを書き殴っていた。別の子どもがやってきて、男性に紙を手渡した。10センチ四方のノートの切れ端だ。そこにはフランス語で何かが書き綴られていた。男性はそれを受け取ると、左手で握っていた葉の粉をその切れ端に注ぎいれ、くるくると巻いた。薪をひとつ拾い上げると、口にくわえたたばこの先を燃やした。意識を取り戻したかのように、その研究者はふと顔をあげた。そのたばこが目に飛び込んだ。たばこに書かれた文字の連なりが、ひと文字ずつ灰になっていった。