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研究の方向性

ここでは,これまでの私のやってきたことと,今後やりたいことを ややエッセイふうに書いてみたいと思います。

「略歴・著作リスト」を読まれた読者はすでにお気づきのことと思いますが, 私の関心には

  1. (広義の)生態人類学にかかわるもの
  2. コミュニケーション,相互行為にかかわるもの
という二つの方向性があります。

前者としては,ボンガンド社会のタイム・アロケーションを調査したもの, 民族植物学的な仕事,GISを用いた土地利用の話などがあり, 後者としては処女論文である野生化牛の社会構造の話, 小離島の対人関係の社会調査(修士論文)に始まり, ボンガンドとバカ・ピグミーの発話様式に関する一連の研究, ボンガンドの個人名の研究(かなり文化人類学の色彩が強い)があります。 またこれと並行して,フィールドの話ではなく相互行為に関する理論的な論文を, 1990年代半ばから書き続けています。

このように,いわゆる「理系的」な要素と「文系的」な要素が混在していて, 業績リストを一見して,「こいつはいったい何をやっとるんじゃ」 という印象を受ける人もいるかもしれませんが, もちろん本人は一定の視座の元にやっているつもりです。 質的データ中心とするものであろうと,量的調査にもとづく分析であろうと, 読者を納得させられるのであればわけへだてなく「道具として」使う, という姿勢で臨んでいるわけです。

その背景には,以下のようなライフヒストリーがあります。

私は京大理学部人類進化論研究室で大学院教育を受けたので, 当初から人類学をやりながら,霊長類の話も(耳学問ですが) 聞いていました。 とくに,「インタラクション・スクール」と呼ばれる人たち (サルの人もヒトの人もいますが)の影響を強く受け, とりあえずその末席に連なっているつもりです。 また,人文研(当時)の谷泰先生の研究会に参加し, 異なった分野の人々とコミュニケーションに関する討論できたということも決定的でした。 この集まりは「コミュニケーションの自然誌研究会」としていまも月に1度開かれています。

もう20年も前になりますが,近くにいた何人かの院生が, 会話に関する本を借りに来たことがあり,それなら本を読んでみようかということで, 「民族誌における会話分析」という研究会(略称「民会研」)を立ち上げました。 しかしその後,理学部人類進化論のインタラクションに興味を持つ 後輩たちが参加させてほしいと言ってきたり, またゴッフマンなどを読んでいると会話分析をやっている人たちが加わったり, というふうにメンバーが増えてきたので, 名前を「インタラクション研究会」(略称「イン研」)と変更し,サル屋, ヒト屋(と人類進化論では呼び習わしてきた)が一緒にインタラクションに関するさまざまな 文献を輪読してきました。

2003年に,私のこれまでの仕事の集大成として単著「共在感覚」(京都大学学術出版会)を 書きました。 私のその時点までにやってきたことのだいたいは,この本を読んでいただければ わかります。 この本では,相互行為の基本的な枠組として「双対図式」 というスキームを提出しました。 その方向性は間違っておらず,この図式は会話を含むさまざまな コミュニケーションの様式, とくに,まだ我々がどう対していいのかよくわかってない, 携帯電話・インターネットといった今日的なコミュニケーションの 分析に有効だと考えています。

「共在感覚」にもすこし書きましたが,双対図式のふたつの次元,

  • 相互行為の「枠」=意味論=be軸=「(で)ある」
  • 行為選択,相互予期=行為論=do軸=「(を)する」
の双方に,非常に難しい(それだけに面白い)部分があります。 この考えを基軸に,インタラクション研究会の成果を「インタラクションの境界と接続」(昭和堂 2010年刊行)と いう論文集として出版しました。

それと並行して, われわれのグループが続けてきた,アフリカ熱帯林研究の集大成としての 論文集「森棲みの生態誌」 「森棲みの社会誌」の2巻本(京都大学学術出版会 2010年)が刊行されました。

また,2011年2月には,NTT出版から,長いこと暖めていた構想であった「括弧の意味論」 を出版しました。

その後,縁あって,昔から興味を持っていた「宇宙人とのコミュニケーション」の 問題を考えることになりました。 縁のひとつは,京大宇宙ユニット への参加, もうひとつは宇宙人類学研究会への参加です。 宇宙人類学研究会では,「宇宙人類学の挑戦」という論文集を上梓しました。 また,インタラクション研究会の活動をベースに, 人間と動物との関係からインタラクションを考えるという論文集「動物と出会う 1」および 「動物と出会う 2」を刊行しました。

2018年9月には,これらの研究の集大成として,長く暖めていた,宇宙人との コミュニケーション(という思考実験)をもとに,コミュニケーションの生成を 考えるという著作 見知らぬものと出会う −ファースト・コンタクトの相互行為論を出すことができました。

アフリカと(あまり)関係のない著作が続いていますが,今後,コンゴでの 研究をまとめた論文集を出す計画を進めています。