日時:2010年9月25日 (土) 15:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館中会議室
   

「識ること」と「役にたつこと」のあいだ
-なぜアフリカの作物にはたくさんの品種があるのか

講師:重田眞義(京都大学アフリカ地域研究資料センター)

 

植物を知識めぐるのなりたち
―アフリカの農村から

講師:佐藤靖明(大阪産業大学)

 

2009年の夏、エチオピア西南部の農村で、村人が自分の畑から持ち寄ったエンセーテという作物の品種を集めて、誰もが訪れることができる農園をつくりはじめました。それから約1年、2ヶ所の農園には700本近いエンセーテが集まり、その品種数は62品種にのぼりました。

エンセーテはエチオピア西南部に暮らす2千万人近い人びとが日々の食卓にのせる重要な主食作物です。巨大な植物体からは大量のでんぷんと丈夫なせんいがとれます。しかし、エチオピア以外の国ではほとんど知られていません。農園がひらかれたエチオピア南オモ県のメツァ村では、エンセーテを日々の食事や様々な目的に利用するだけでなく、子どもから大人まで皆が品種を区別してそれぞれの名前を知っています。

この講座では、エチオピアの作物エンセーテについて紹介し、その品種をめぐる村人たちの利用と認識の関係についてお話しします。なぜ、エンセーテにはたくさんの品種があるのか、人びとが識っているのか、それは単にエンセーテが役にたつからだけとはいえないようです。

 

アフリカの人びとの自然に対する知識の豊かさには、いつも驚かされます。かれらの農村での暮らしは、誕生から死まで、常に動植物と共にあるといっても過言ではありません。日々の生活の中で知識を学び、取り交わし、生かしているのです。しかしそこで扱われる事柄は、学校教育で必須となる教科書にはほとんど書かれていません。

このような知識は、科学的でない遅れたものとして蔑まれたり、反対に保護すべき伝統的なものとして礼賛されたりする傾向にあります。外からの基準で一方的に切り取り評価するのではなく、もっと地域社会に寄りそった形で知識をみていく方法はないのでしょうか。

この講座では、東アフリカのウガンダでバナナと深くかかわる社会での事例をお話します。各世帯で数十もの品種を栽培するかれら一人ひとりは、「バナナ博士」と感じられるほどに多くのことを語ってくれます。これらの知識には、地域で広く共有される常識的なものから、人生での経験に裏打ちされた自分だけのものまで、実にさまざまなものが含まれます。あいまいさや個人間での違いが時に許容される点も特徴的です。そのおおらかさは、知識を孤立した実体ととらえるのではなく、人と植物のやりとりから現れるものとして、また人から人に、世代を越えて言葉と植物を介して伝えられるネットワーク的なものととらえることによって理解することができます。茫漠とした迷信の世界でも、整然と体系立てられたシステムでもない知識の世界を共に楽しみましょう。

最後に、かれらの知識が科学的知識や市場経済と接触することによって生じつつある問題についても報告します。

 

【講師プロフィール】

重田眞義(しげた まさよし)
京都大学アフリカ地域研究資料センター長、教授。1956年京都府生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了、農学博士。専門はアフリカ地域研究、人類学、民族植物学。おもな論文に「ヒト-植物関係の実相」「エチオピア起源の作物エンセーテの多様性を守る人々の営み」「嗜好品とともにすぎゆくエチオピア高地の一日」。編著に『アフリカ農業の諸問題』(京都大学学術出版会)、『睡眠文化を学ぶ人のために』(世界思想社)など。NPO法人アジアとアフリカをつなぐ会の代表としてエチオピアでの地域発展プロジェクトをおこなっている。

 

 

【講師プロフィール】

佐藤靖明(さとう やすあき)
大阪産業大学人間環境学部客員講師。1976年、福島県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士(地域研究)。2009年4月より現職。専門は民族植物学、アフリカ地域研究。東アフリカのウガンダとルワンダにおいて、バナナ栽培を基盤とした農耕文化の特質を明らかにする研究を行っている。著作は『アフリカの料理用バナナ』(国際農林業協働協会編、共著)など。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フィールド研究者ネットワークウェブ構築委員、「バナナの足」研究会メンバー。