日時:2010年6月26日 (土) 15:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館中会議室
   

アフリカの農業にとって「耕す」とは何か

講師:伊谷樹一(京都大学アフリカ地域研究資料センター)

「耕し方」に正解はない

講師:近藤史(神戸大学)

 

古来より人は大地を耕し、作物を育てて生活の糧を得てきました。農業は、作物の生育に適した環境(水、土、光などの条件)を整えて、より多くの食料を安定的に生産する生業であり、その最も基本的な工程が「耕す」ということになります。

田畑の耕し方にはさまざまなタイプがあり、アフリカにもトラクタを用いる近代的な農業もあれば、牛耕や手鍬を使う在来農業、なかには焼畑のようにまったく耕耘しない農法もあります。一般的に田畑の耕作には鉄製の農具を用いますが、製鉄技術が普及するまでは、こうした「火で耕す」農業が広くおこなわれていたのでしょう。農業にとって「耕す」ことはあまりにも当たり前すぎて、そこに内包されるさまざまな意図は看過されがちです。

今回は、あえてこの当たり前の作業に着目し、その工程に農学的な解釈を付け加えつつ、耕作方法からアフリカの農業を類型化してみます。そして、アフリカで今も続けられている焼畑農業も取り上げ、農具による耕作との比較を通して「耕す」ことの意味について考え、アフリカ農業への理解を深めていきたいと思います。

 

農業には水と土壌養分が不可欠です。現金収入の少ないアフリカ農民は、スプリンクラーやトラクター、化学肥料といった工業製品をあまり使わないかわりに、地域の生態環境を活かした多様な農業技術を発展させて、自然の恵みを引き出してきました。

例えば、タンザニア南部高原に住むベナの人びとは、一湿潤な河岸湿地の過剰な水分を排出して、乾季のあいだに作物を栽培し、高値で販売しています。また、山の斜面にひらく雨季の畑では、人為的に育成した森林を焼くという方法で周期的に養分を供給し、高価な化学肥料の使用量を削減しています。

これらはいずれも、植民地期から約半世紀のあいだに、社会経済的な変化に応じて、外部から持ち込まれたモノや技術を取り入れながら改良された、ユニークな在来農法です。こうした技術改良は一方で、多くの労働投入を必要とします。ベナの人びとは農作業の際に地酒を用意し、複数の世帯が労働力を提供しあうことで、出稼ぎにともなう男性労働力の不足という問題を解消しています。

この互助労働は、多くの人が改良技術の試行に参加してその知識や経験を共有する場にもなっており、技術の普及や、さらなる創造的な発想の素地をつくる機会にもなっています。

 

【講師プロフィール】

伊谷 樹一(いたに じゅいち) 
京都大学アフリカ地域研究資料センター准教授1961年京都府生まれ。1990年に京都大学大学院農学研究科を修了したのち、宇都宮大学農学部講師を経て、京都大学准教授に就任し、現在に至る。『国際農業協力論』1994,古今書院、『アフリカと熱帯圏の農耕文化』1995,大明堂などに分筆。サハラ以南アフリカの広大な地域を占める乾燥疎開林(ミオンボ林)帯をフィールドとして、そこで営まれてきた多様な生業、とくに在来農業について研究してきた。最近では、農村開発にも関心を広げ、実践的な活動にも関わっている。

 

 

【講師プロフィール】

近藤 史(こんどう ふみ)
神戸大学大学院農学研究科地域連携研究員、篠山フィールドステーション駐在。NPOアフリック・アフリカ理事。 2008年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士(地域研究)。2008年12月より現職。専門はアフリカ地域研究、農業生態学。タンザニア南部の農民が、いかにして在来の知識や技術を基盤としつつ、生態環境の循環的な利用と地域経済の向上を両立し、社会経済的な変動に対応しうる自立的な体制をつくりあげてきたのかに主な関心を持ってきた。最近は、兵庫県篠山市でもフィールドワークをはじめ、アフリカと日本の農業の内発的な発展のあり方について、担い手の女性化と高齢化という共通点を切り口に比較できないか考えている。主な論文に「タンザニア南部高地における在来農業の創造的展開と互助労働システム―谷地耕作と造林焼畑をめぐって―」2008など。