COE 国際シンポジウム(於京都)

アフリカの「難民問題」を考える

開会の辞


 

市川光雄

京都大学アフリカ地域研究資料センター、センター長

みなさん、おはようございます。

今日こうして、みなさんを京都にお迎えして「アフリカの『難民問題』を考える」と題する国際シンポジウムを開催できることを、わたしはとてもうれしく思います。このシンポジウムは、文部科学省の資金による特別推進研究(COEプロジェクト)の一環として、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科のアフリカ地域研究専攻(アフリカ地域研究資料センター)が主体となって企画したものです。

アフリカ地域研究資料センターの前身であるアフリカ地域研究センターは、アフリカ研究を専門とする日本で最初の研究機関として、1986年に設立されました。しかしながら京都大学におけるアフリカ研究の歴史はもっと古く、1950年代の後半にさかのぼります。このセンターの設立に尽力され、初代のセンター長をつとめられたのは亡くなられた伊谷純一郎先生ですが、先生がその当時、東アフリカと中央アフリカにおいて生態学的・人類学的な調査をされたのが、京都大学におけるアフリカ研究の嚆矢となりました。そして、当センターにおける初期の研究は、多様な文化的形態のなかにヒトの本質を見極めること、すなわち人間性の進化史を解明することに焦点をあてつつ、主として生態学的な手法によりながら実施されてきました。しかしながら、その後に当センターのスタッフによる研究は、現代アフリカがかかえている諸課題に学際的なアプローチによって対処しようとする研究へと拡大してゆきました。その諸課題とは、たとえば地域の開発や自然環境の持続的な利用といった問題、あるいは多民族社会におけるさまざまな社会的、文化的な問題などです。当センターの研究がこのように展開していったことには、それなりの理由があります。それは、現在わたしたちが直面しているさまざまな課題、たとえば環境破壊の問題や貧困問題、あるいは民族間・地域間の紛争といった課題が、アフリカに集中しているからです。そして、このシンポジウムの主題である「難民問題」もまた、アフリカ大陸がかかえている主要な課題のひとつです。

 

COEプロジェクトについても、少しご説明をしておきましょう。このプロジェクトは、アジア・アフリカ地域研究に関する世界的な中核拠点を京都大学に形成することを目的としており、1998年より5年計画で実施してきました。プロジェクトのタイトルは「アジア・アフリカにおける地域編成−原型・変容・転成−」であり、今年は最終年度をむかえています。そしてさらに今年度からは、「21世紀COEプログラム」によるプロジェクトを新しく開始します。わたしたちは、この節目の機会に国際シンポジウムを組織しようと考えたわけです。アフリカの「難民問題」をテーマとすることは、このシンポジウムの企画・推進者である太田至さんとインティソ・ゲブレさんの発案によるものです。太田さんは長年にわたって、ケニア北部に分布する牧畜社会についての人類学的な研究をすすめられており、その地域につくられた難民キャンプの調査もされています。ゲブレさんもまた、人類学がご専門ですが、とくにアフリカにおける「難民問題」を主要なテーマとして研究を続けてこられました。お二人からは、このシンポジウムの開催にいたる経緯や目的などについて、よりくわしい説明があるはずです。
このシンポジウムをとおしてわたしたちは、アフリカの人びとが直面している「難民問題」に関して、たくさんのことを学ぶことができるでしょう。このシンポジウムを実現させるために尽力し、また支援してくださったみなさんに感謝の意を表したいと思います。とくに、海外から遠路はるばる参加してくださった方々に、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。  


 

太田至

京都大学、シンポジウム企画・推進者

おはようございます。シンポジウムの企画・推進者のひとりとして、ひとこと、ご挨拶を申し上げます。

このシンポジウムは、アフリカにおける「難民問題」を主題としているわけですが、日本でこうしたシンポジウムが開催されるのは、おそらくこれが最初のことだと思います。そしてまた、この分野で世界的に活躍している最先端の研究者が、日本で一堂に会するのも初めてのことです。アフリカ大陸は、わたしたち日本人にとっては、なじみのうすい地域です。その理由は単純に地理的に遠いというだけではなく、歴史的にもまた、日本とアフリカの交流が限られていたためです。このシンポジウムはわたしたちにとって、アフリカについて多くのことを学び、とくにアフリカの人びとが直面している「難民問題」について理解を深めるための絶好の機会となるはずです。

このシンポジウムで講演をおこなう方々はみな、アフリカの「難民問題」に関して広範かつ該博な知識をそなえておられます。そしてまた、講演者の多くは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界銀行、あるいはアメリカ国際開発庁(USAID)などの国際的な援助機関で実際に働いた経験をもっています。この方々は「難民問題」について積極的に発言してきており、その豊かな経験をいま、わたしたちに披露してくれるはずです。このシンポジウムは、こうした人びとの知見を学びつつ意見を交換するための、この上ないチャンスとなるものと、わたしは確信しています。

このシンポジウムを実現させるためには、たくさんの方々のご尽力をいただきました。第一に、これに講演者として参加することを快諾してくださったみなさんに感謝したいと思います。このシンポジウムでは、合計13人の講演を予定していますが、そのうち9人は海外から参加されています。世界各地の遠方より京都に参集していただいた方々に感謝します。

また、このシンポジウムは、先ほど市川さんから説明がありましたように、文部科学省の特別推進研究(COEプロジェクト)の資金によって実現しました。さらにまた、日本学術振興会、日本アフリカ学会、日本ナイル・エチオピア学会からも資金的な援助をいただきました。こうした諸機関からの支援にも、感謝の意を表します。

さて、最後にみなさんに、わたしと一緒にこのシンポジウムを企画・推進してくださった、インティソ・ゲブレさん、現在、京都大学の客員研究員として日本に滞在しておられますゲブレさんをご紹介して、わたしのご挨拶を終わりたいと思います。ありがとうございました。



インティソ・ゲブレ

京都大学客員研究員、シンポジウム企画・推進者

みなさん、おはようございます。このシンポジウムにようこそ!

わたしは、この「アフリカの『難民問題』を考える」と題するシンポジウムにおいて、開会の辞を述べることをたいへん誇りに思います。なによりもまず、わたしと一緒にこのシンポジウムを企画・推進し、今、わたしを紹介してくださった太田さんに感謝します。彼と一緒に仕事ができることを、わたしはたいへん光栄に思っています。

このシンポジウムを企画することになったとき、わたしたちは何を主題にすべきかについて真剣な議論を重ねました。アフリカの現代的な課題のなかで、当初はふたつの案があり、ひとつは旱魃と食糧安全保障に関するものだったのですが、わたしたちは最終的には広い意味での「難民問題」(すなわち、人びとのディスプレイスメントにともなう諸問題)を選ぶことにしました。この課題を選択した理由の一端は、わたしたち企画者がともに、この問題に直面している人びとのあいだで調査をしてきた経験をもつことです。しかしまた、同時にわたしたちは「難民問題」が、アフリカに限らず、普遍的な課題であることも意識していました。

アフリカ大陸は、地球上でもっとも多くの「難民」をかかえています。すなわち世界中の難民の30%、そして国内避難民の60%はアフリカにいると推定されています。現在、アフリカだけで、およそ1700万人の人びとが故郷を離れることを余儀なくされており、その数は今後も増加すると予想されます。こうした状況を生むことになる原因は多様です。ひとつには、もちろん戦争や民族紛争がありますが、それだけではなく、さまざまな開発援助や都市計画、そして自然資源を保護するためのプロジェクトの実施にともない、あるいは天災によっても、人びとは立ち退きを強いられています。こうした事実に鑑みて、わたしたち企画者は、広い意味での「難民問題」に焦点をあてることは重要な課題だと判断したのです。このシンポジウムを通してわたしたちは、知識を共有しつつ視野を広げて、学問的な知見をどのようにしたら政策に反映できるのかを議論できるものと思います。

シンポジウムであつかわれる問題は、広く拡散しすぎると収拾がつかなくなりますし、逆にあまりに特殊であるのも困ります。プログラムをごらんになればわかりますが、このシンポジウムでは広い意味での「難民問題」に関する多くの論点がとりあげられています。すなわち、狭義の難民だけではなく、開発計画の実施や飢饉、あるいは自然保護プロジェクトにともなって立ち退きを余儀なくされた人びとの問題や、こうした「難民」を受けいれる地域社会の問題、復員兵士までをふくんだ「難民」の地域社会への再統合の問題などが検討される予定です。大切なのは、こうした問題のすべてが、人びとのディスプレイスメントにともなう諸問題、すなわち広い意味での「難民問題」をあつかっていることです。これまでの研究では、こうした多様な「難民問題」が、それぞれに隔離されたような別個の研究分野としてあつかわれてしまうのが一般的であり、それぞれの分野の研究者のあいだにも、ほとんどコミュニケーションが成立しませんでした。こうした分野間の障壁を越境しようとする研究者が登場してきたのは、ごく最近のことです。このシンポジウムに多様な研究者を招へいしたのは、こうした境界を越えて広く交流を促進しようという意図があってのことなのです。

わたしたちはまた、このシンポジウムで話し合われることが、この会場の中だけにとどまらず、京都から、そして日本から羽ばたき、世界中にとどくメッセージとなることを望んでいます。この目的を達成するためには、卓越した著名な研究者を世界中から招へいすることにしました。そうした研究者と連絡をとり、日本でおこなうシンポジウムのために発表原稿の執筆を依頼することは、わたしにとっては気後れするような経験でした。しかしながら、この場に参集してくれた研究者は誰もが、わたしたちの企画に興味を示し、よろこんで参加することを約束してくれたとき、わたしたちは小躍りしたいような気分でした。こうした研究者を今日、ここに迎えていることを、わたしたちはとても誇りに思っています。彼らが時間と労力を費やしてくれなかったならば、このシンポジウムは実現しませんでした。企画・推進者を代表して、心からお礼を申し上げます。

 

こうして企画をすすめてきた今、わたしたちは最後のもっとも大事な局面をむかえています。つまり、このシンポジウムが成功するかどうかの運命は、講演者だけではなく、会場のみなさん全員の熱意にかかっています。いまこそ、責任をもって前進するときです。わたしたちは、知的な刺激に満ちた講演を聞くことはもちろんのこと、会場のみなさんの活発なご参加を得ることを期待しています。

ところで、このシンポジウムは四つのセッションにわかれています。最初の三つのセッションは、個別な講演と質疑応答にあてられます。そして最後のセッションは自由な討論をするためのものです。ただし、そのセッションの方向付けをするためには、このシンポジウムで話し合われたことをまとめて再確認する必要があります。わたしたちはチェルニア博士にこの仕事をお願いしました。このシンポジウムを聞きながら、最後のセッションで話し合うべき重要な点を、講演される方々だけではなく、会場の方々にもまとめておくことをお願いしたいと思います。

このシンポジウムは主として研究者のためのものですが、最終的には外部の世界にむかってメッセージを発信し、政策決定にも資するものにしたいと考えています。わたしたちがこの二日間にわたって、ここ、京都で話し合うことが、アフリカのみならず世界を変えるものとなることを祈りましょう。ありがとうございました。