7. これからの課題:文化生成の動態的システム?

バカの精霊儀礼を総体として考えた場合、ジェンギのようなスタンダードを生み出しつつも、常に変化し続ける、一つの動的なシステムとして描き出せるでしょう。この視点は、仮にですが、各種の精霊たちを、互いに競合関係にあるものと見立てることになります。そうしますと、例えば、儀礼パフォーマンスにおいて、精霊たちが人々を楽しませるために繰り出す様々な仕掛けは、彼らが人々の心の中に「生き続ける」ための「武器」に見えてこないでしょうか。その中で、ジェンギのようなメジャーな精霊は、何らかの要因により、多大な人気を博し「成功」したものと考えることができます。しかし、バカにとって魅力的な精霊が新たに現れ、ジェンギに取って代わる日が来ないともいえないのです。逆に、何らかの環境的激変(極端な近代化や紛争)により、精霊そのものが絶滅してしまう(人々の心の中から消えてしまう)日が来るかもしれない(・・・なるべく避けたい可能性ですが)。

このような考え方は、形の上では、種に分かれた生物たちが互いに関係し合い、時には競合しながら、全体としての生態系を作り上げるという、進化生態学の考え方に似てきます。さらには、バカの精霊と、ムブティの精霊とでは当然違いがあるでしょうが、それは、背景となる「生態系」の進化のあり方の違いなのかもしれない、というところまで考えは膨らみ出します。ちょっとぶち上げすぎかもしれませんが、ピグミーの精霊という資料を足がかりにしながら、「文化の生態史学(?)」とでもいったものを理論化できないものかなーとぼんやり空想したりもします。

そのためには、「文化内多様性」に留意した先行研究が余りにも少ないのが問題です。ふつうの人類学的研究は、「文化間」の多様性に、ただちに向かいがちとなるきらいがあったからです。これからは、ピグミーの「精霊」のみにこだわることなく、アフリカ中を歩き回ってリサーチし、個々の文化を動態的に捉え、単純な比較を避ける視点を確立する必要が出てくるかと思います。