第99回 海にせりでた伊根の舟屋集落とその成立要因

 趣旨

漁村では全国で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区の選定された舟屋集落は海と山に囲まれた沿海部の狭小な敷地に立地しています。集落の住民はそのような地理的条件に適応し、海面にせりだし、まるで家が海に浮いているような独特の住環境を作り出しました。今回の巡検では船に乗り「海」から集落を概観します。その後、山の斜面に開墾された新井の棚田を見学し、「山」から集落を俯瞰します。そして、伊根の舟屋集落を歩きながら、その成立要因を考察し、また今なお住み続けられている漁村集落における生活環境の発達と知恵について学びます。

 案内者

大谷 侑也(京都大学大学院文学研究科M2)雨宮 いほ乃(京都大学文学部B4)重永 瞬(京都大学文学部B2)石井 美園(京都大学経済学部B1)

 野外実習の概要

日時
2016年11月6日(日)
場所
伊根の舟屋集落
参加者
16名(学部生8[文6、経1、工1]、院生5[文2、ASAFAS 2、地球環境学舎1]、教職員2[文1、東南アジア研1]、社会人2)
行程
稲盛財団記念館に集合→天橋立→伊根の舟屋群→遊覧船で伊根湾めぐり→向井酒造→新井の棚田→京大到着・解散

 報告

今回の巡検は丹後で行いました。まずは、2015年に全線開通したばかりの京都縦貫道を通って天橋立へと向かいました。

天橋立の北側、傘松公園からの眺めです。天橋立は宮津湾にのびる湾口砂洲です。全長2.5km、幅100mで、砂洲上には約8000本の黒松が生えています。松島、宮島とともに日本三景の一つに数えられ、雪舟の『天橋立図』に描かれるなど、日本の代表的な景勝地です。

天橋立からの眺めを楽しんだ後は、伊根へ向かいました。途中、伊根の道の駅で昼食をとりました。伊根の名物である鰤や、郷土料理「へしこ」などをいただきました。伊根の舟屋は与謝野郡伊根町伊根浦の海岸線に並ぶ集落群で、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。舟屋は妻入り2階建ての民家で、1階部分が船置き場となっているのが特徴です。漁業が長く中心産業だったこと、波の穏やかな湾内にあること、背後の山が急峻で陸路が発達せず、水上交通が中心だったことなどが理由となってこのような住宅形態が発達しました。

伊根では、遊覧船に乗って海から集落を眺めました。船の周りにはトビやカモメが舞い、船で購入できるエサを投げると、空中でキャッチして食べてくれます。海から見ると、舟屋が海岸線上に一筋に並んでいることがよく見てとれました。舟屋は山側にある主屋と一対になっており、昭和に国道が通されるまでは舟屋と主屋は一続きの敷地の中にありました。また、現在は瓦葺の屋根も、明治の終わりに鰤の豊漁で裕福な家が増えるまでは茅葺でした。

舟屋を見た後は、伊根にある向井酒造を見学しました。向井酒造は1754年創業で、女性の杜氏さんがいらっしゃる珍しい酒蔵です。見学では酒造りが行われる室やアルコール度数の確認に使われる用具などを見させていただきました。また、古代米でつくられた赤い日本酒「伊根満開」の試飲もさせていただきました。爽やかで飲みやすい味でした。ありがとうございました。

最後は伊根の少し北にある新井(にい)の棚田を見ました。伊根町新井地区には傾斜地に棚田が多くありますが、耕作放棄されたものも多く見られます。

新井の棚田を見た後は車で京都へと帰還しました。不安定な天気でしたが、午後からは晴れとなり、丹後の美景を楽しむことができました。お疲れさまでした。(写真は棚田を眺める一行)

京都大学自然地理研究会

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