第81回 琵琶湖水系百瀬川の扇状地地形と河川争奪

 趣旨

琵琶湖西岸,湖西地方の北部を流れる百瀬川は,明瞭な扇状地を形成している河川として有名です。扇央部での河川の伏流や網状流の痕跡,典型的な土地利用などから,しばしば中学校・高等学校での学修事項に盛り込まれる事例でもあります。今回の実習では,そのような扇状地の景観について学ぶとともに,扇状地が形成されるにいたった背景について,地形や地質をめぐる側面から学びました。

 案内者

  • 井出健人(京都大学文学研究科M1)
  • 田村賢哉(奈良大学文学研究科M2)

 野外実習の概要

日時
2013年6月23日(日)
場所
滋賀県高島市百瀬川扇状地ほか(JR湖西線近江中庄駅周辺)

参加者
11名 (学部生2 [文1;立命館大学 -文1]、 院生8[AA研3;文1;工1;農1 ; 奈良大学-文2]、 教職員1 [AA研1]、 )
行程

大学を出発→高島市今津町、百瀬川扇状地到着→扇頂部より河川争奪現場へ→伏流河道にそって下流へ→河川改修・湧水帯などの観察→琵琶湖畔にて昼食→平池到着→河川争奪の解説、カキツバタの群生、モリアオガエルの産卵の観察→大津市比良とぴあにて入浴→大学近辺にて打ち上げ

 報告


今回は、百瀬川扇状地の地形とその周辺の土地利用を観察しました。

最初の観察ポイントは百瀬川の扇状地です。まず、扇状地より少し上流から観察を行いました。百瀬川の扇頂から少し上流を歩いて、百瀬川が流れる谷を観察したところ、崩壊している斜面が多くみられ、百瀬川の谷に連なる砂防ダムは浸食された砂礫が堆積し満杯状態になっていました(写真1,写真2)。百瀬川の谷で侵食が激しいのは、野坂山地の隆起により、近くに流れる石田川との間で河川争奪が起きた結果、百瀬川の流域が拡大したためです。


写真1 谷の崩壊斜面(百瀬川扇状地より少し上流)


写真2 百瀬川の砂防ダム

次に谷を抜けた百瀬川扇状地の扇頂付近です。百瀬川では、運搬された砂礫が谷と低地との境に堆積し扇状地を形成しました。扇状地では大小様々な大きさの砂礫が堆積するため地下に水が浸透しやすく、扇状地を流れる河川はしばしば伏流します。百瀬川の扇頂からやや下流部で、河川が伏流する地点をみつけました(写真3)。
写真3 百瀬川扇状地の伏流地点

このように百瀬川は時期によっては伏流し水無し川となりますが、逆に河川の流量が増えた際には、洪水となり氾濫します。度々の氾濫によって形成された百瀬川扇状地ですが、扇状地の利用にあたり、洪水被害が及ばないように堤防が設けられました(写真4)。現在の百瀬川は、両側の堤防内で氾濫しないようコントロールされています。


写真4 百瀬川扇状地の堤防内

堤防によってコントロールされた百瀬川は、天井川を形成していきます(写真5)。天井川とは、砂礫の堆積により河床が周辺の平面地よりも高くなった川のことです。天井川化がこれ以上進むと氾濫したときに甚大な被害となってしまうため、現在百瀬川では、河川の付け替え事業を実施しています。
写真5 百瀬川を横切る道路面が河床よりも下にあるため、トンネルにより横断しています。

次に、百瀬川扇状地での土地利用をみてまわりました。一般に扇状地の扇央では水はけの良い土壌のため畑作や果樹栽培といった土地利用が卓越します。しかし、百瀬川扇状地の扇央では灌漑をおこなうことで、百瀬川の伏流箇所より上流から水をひき、稲作を可能にしています(写真6)。


写真6 扇央での稲作風景

また、百瀬川扇状地の扇端部では、湧水をみつけることができました。この付近には、一般的な扇状地の扇端部にみられる土地利用である集落や水田が分布していました。
写真7 百瀬川扇状地の湧水地点での観察

最後に、百瀬川との間に河川争奪が生じた石田川の上流にある平池に向かいました。この池は湿地となっており、河川争奪によって石田川の流量が急激に減少し、谷底の広さに比べて流量の少ない河川になったことで形成されました。また、平池はカキツバタの群生地です。カキツバタは、低湿地に分布している多年草で、天然記念物として保護されている植物です。カキツバタは5月から6月にかけて紫色の花が咲き、今回の巡検でも観察することができました(写真8)。


写真8 平池とカキツバタの群生


恒例の集合写真です。この後、温泉で巡検の疲れを取り、帰京しました。 参加された皆さん、お疲れ様でした。

京都大学自然地理研究会

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