第75回 滋賀県朽木地域における獣害と山林の変化、獣害に対する取り組み

 趣旨

近年、日本国内の山間地域では、シカやサル、イノシシなどの野生動物による農作物への食害が相次いでいます。その被害は農作物にとどまらず、山の産物にも及んでいます。

今回フィールドとなる滋賀県朽木においても、農作物への被害が甚大であるとともに、トチ餅の原料であるトチノミにも獣害が及んでいるといわれています。そうしたなかで、自然地理研究会がこれまで主体的に進めてきた研究プロジェクトや現地NPO「巨木と水源の郷をまもる会」を中心に、獣害への対策を講じ、山林の植生保護に取り組む動きも出てきています。今回の実習では、野生動物の管理や保全がご専門の高柳敦先生(京都大学農学研究科)を講師としてお迎えし、獣害柵の設置など、獣害対策の具体的な方法について講習をしていただきました。また、同日午後には、同地域の林業家の方に山を案内していただき、ここ数十年の山の変化や獣害の状況などを説明していただきました。これらを通して、朽木の山や地域の大きな変化と獣害の実態を理解し、それに対する取り組みを考えました。

(※午前の実習は、朽木の巨樹保護団体「巨木と水源の郷をまもる会」と合同で実施いたします。)

 案内者

  • 講師 高柳敦先生(京都大学農学研究科)
  • 講師 梅本和義氏(朽木の元林業家)
  • 案内 藤岡悠一郎(近畿大学農学部)
  • 案内 井出健人(京都大学文学部)

 野外実習の概要

日時

2012年7月16日(月)

場所
滋賀県高島市朽木
参加者
15名 (学部生5 [文2;工1;農2]、院生3[地環2;AA研1]、教職員1[AA研1]、研究員6[AA研1;近畿大学-農1;横浜市立大学-都市社会文化1;他機関3])
行程
07:30 稲盛記念館発

09:15 朽木生杉 交流館「山帰来」到着(実習地・保谷まで車で15分ほど移動)

09:30 獣害講習会(保谷)

11:45 実習終了、昼食(保谷に再度移動。梅本さんと合流)

13:00 山歩き。山利用の変化や獣害に関するお話を聞く。

15:30 終了

16:00 くつき温泉てんくう(入浴)

18:00 京都着 打ち上げ

 報告

今回は、野生動物による食害が深刻化している近畿地方山間地域の例として、滋賀県朽木で獣害対策である防護柵の設置講習会に参加し、また地域の林業家の方の案内のもと地域の山林がどのような変化を経験してきたかについて学習しました。  

まずは、シカの防護柵の設置方法について学びます。今回の実習では、京都大学農学部の高柳先生を講師にお迎えした獣害対策の講習会に参加しました。

講習会を行うのは、地域でも有数のトチノキの巨木のそばです。今回はトチノキになる実がシカによる食害を受けるのを防ぐための柵を設置する、というテーマが設定されました。シカやイノシシによる食害を避けるため、山間部では農地に防護柵を施すのが一般的ですが、より野生生物に近い山林の内部に防護柵を設けるためには、いくつかの問題点をクリアしなければなりません。車で近づけない山中に設置した防護柵は、手入れや修理をするのも一苦労です。また平坦で整備の進んだ農地と異なり、山中では斜面上に柵を設置しなければなりません。降雨に伴う地形の改変や積雪にも耐えられる耐久力が求められます。もちろん、山中では農地よりも野生動物に出会う頻度は増えることから、彼らがその柵を「破る気をなくさせる」ような工夫が求められます。

防護柵の材料です。ホームセンターで手に入るものもありますが、手入れが難しく、かつ野生動物の侵入を完全に防がなければならないことなどから、専門の業者から購入する頑丈な材料もあります。

たとえば網です。シカは非常に力が強いため、通常の網は簡単に引きちぎられてしまいます。そのため、シカの口が通りづらい大きさの網の目に、針金を織り込んだ特別な網を用います。写真の網は、伸ばしてもほんの10メートルほどの長さにしかなりませんが非常に重く、大人一人で持ち上げるのは大変です。

網がたわんでしまわないように、支柱は比較的狭い間隔で立てるそうです。斜面上に設置する際も、網の目が横や縦に伸びないような間隔が最適です。

日本海に近いこの地域は、豪雪地帯にも指定されています。積雪にも耐えられるよう、山中に設置する場合には支柱を支えるために更に柱を立てます。

シカは防護柵の下部の土を掘って柵の中へ入ることが多いため、このような杭でしっかりと網を地面に定着させます。

第75回 滋賀県朽木地域における獣害と山林の変化、獣害に対する取り組み#2」へ続く

京都大学自然地理研究会

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