第56回 水と森林から考える人々のくらし
趣旨
今回の自然地理研究会では人と自然の関わりについて学ぶことを目的とし、それを?水の利用と?森林の利用から考察する。対象とする地域は京都府南部の向日市、長岡京市、八幡市とする。?水の利用については、中世から近世にかけて生活用水の確保のために人々が設けた用水跡及び溜池について、そしてこの地域に不利な水利条件をもたらした地形的条件について学習する。また、?森林の利用として、低地における人間活動の結果生じた薪炭林と、人の手が長期にわたって加わらなかったために原生的な状態が保存された極相林について、その遷移および二次林の維持・管理の点から学習する。
実習当日は、出発点である向日町丘陵上から地域の中心を流れる小畑川およびそれに接した扇状地である今里地域の地形を概観し、水利用に関して今里地域が持つ地形的な特性を理解する。次に、歴史的に不利な水利条件下にあった旧今里村に恵みをもたらした今井用水の跡を実際に辿る。その後西山山麓の光明寺に移動し、周囲の山林内に旧今里村が開発した溜池を訪ね、山中に残る流水確保のための水路跡を辿り、かつて活用された水道施設の跡がどのような形で現在残されているかを知る。これに併せて、光明寺周辺では人々の活動の結果として成立した二次林を観察し、その後八幡市男山に移動して、歴史上聖域とされ人の手が永らく入らなかった極相林を歩き、人々の活動と植生の関わりについても学習する。
案内者
- 通山潔(医学部)
- 瀧口正治(理学研究科)
- 藤田知弘(アジア・アフリカ地域研究研究科)
座学の概要
- 日時
2010年6月11日(金)
- 場所
- 参加者
野外実習の概要
- 日時
2010年6月13日(日)
- 場所
- 参加者
- 行程
報告
長岡京市、向日市は小畑川を境に接しており、この小畑川に運搬された土砂が堆積して形成された扇状地の上に、今回の実習の目玉の一つである今里地域があります。
朝は京都大学稲盛財団記念館前に集合し、そこから車で小畑川北東の台地上にある向日神社に移動しました。
国の重要文化財に指定されている向日神社の社殿。周りの土地より高い台地の上にあります。
社殿の裏に回ると台地の端に出ます。写真のように台地から一段低くなっているところにマンションが建てられています。
向日神社から住宅地の中を北に移動すると、土手の上から眼下を流れる小畑川や西山の方向を見渡せる場所があり、長岡京、向日地域の地形を概観できました。
向日神社の北側の土手の上からからの眺望。写真左側が東、正面が南、右側が西です。中央左寄りの樹木に覆われた土地の盛り上がりが向日神社です。中央右寄りに写っている駐車場の裏を写真の右端から中央奥に向かって小畑川が流れています。向日神社の右端が切れ落ちているのはこの小畑川に削られたためです。その後土手を下って小畑川を渡りました。
現在は住宅地の中を流れる比較的小規模な河川である小畑川ですが、戦後に堤防が造られるまではしばしば暴れ川となって周辺地域に水害をもたらしました。写真手前の河原は土砂が堆積してからの期間が短く、植物が定着し始めたところです。時間がさらに経過すると写真奥のようになります。
続いて小畑川の西側にある右京の里団地の住宅街を歩きました。この近辺は戦国時代に造られた農業用水路「今井用水」とその水源があったところです。この用水は水源から数百メートルほど南に位置する今里地域の水田に水を供給するために使われました。なぜ地域の外部から水を引いてくる必要があったのか。それは今里地域は小畑川が運んできた土砂が厚く堆積して扇状地が形成されたところにあるので、地下水が伏流として数十メートルもの深さに潜っており井戸を掘って水を得るのも困難だったからです。
住宅地の公園の中に佇む今井用水水源地を示す碑(2010/7/27撮影)
かつて今井用水が通っていたのと同じところに現在はコンクリート張りの水路が造られています。現在辺りは住宅街ですが当時は水田が広がっていました(2010/7/27撮影)。
続いて西山山麓の光明寺へと移動し、そこから裏山にある田園地帯を散策しました。
ここでは畦の崩壊を防ぐためにナラガシワを畦に植えています。古い枝を伸長し過ぎる前に切り落とし、写真のように新しい枝を出させます。これを萌芽更新といいます。光明寺周辺には樹木による畦止めに加え、森林内の樹木に萌芽更新を繰り返させることよって維持されてきた薪炭林がみられます(今回はそちらに足を運ぶことは出来ませんでした)。
京都大学自然地理研究会
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