第54回 京大周辺の自然観察:比叡山の地質と植生

 趣旨

今回は京都盆地の北東部に位置し、京大生にとって身近なフィールドである比叡山を歩き、そこで見られる地質や埴生の観察を行い、現在の東山地域の形成過程について理解を深める。

まず大文字山から比叡山までが一望できる加茂大橋で、東山の埴生と京都盆地および東山の地形史を概観する。登りに利用するきらら坂ではアカマツ林とコナラ林の特徴や、人工林と二次林の違いについて説明する。また人間の往来によって削られた特徴的な地形を観察し、山を形成する岩石である花崗岩の特徴について理解を深める。

最後に、比叡山頂を形成するホルンフェルス岩体を観察し、山頂から京都〜琵琶湖に至る景色を一望することで京都盆地の地形的特徴を確認する。

 案内者

  • 瀧口正治(理学研究科)
  • 田中孝明(工学部)

 野外実習の概要

日時

2010年4月25日(日)

場所
京都市左京区
参加者
19名 (学部生5 [総1;医1;工1;農2]、 院生13 [理1;農3;人環1;AA研7;地環1]、 教員1 [AA研1])
行程
08:45 叡山電車出町柳駅改札前に集合

      鴨川へ移動して、比叡山から大文字にいたる地形を見ながら巡検の概要説明

      その後叡山電車で修学院駅へ移動

10:00 修学院駅出発

10:30 修学院登山口到着、音羽川の砂防ダムを見て登山道へ

      比叡山の植生や、花崗岩の作る地形について観察しながら登山、途中昼食休憩

14:30 ケーブル比叡駅に到着。ロープウェイで山頂へ

15:10 比叡山頂に到着

      琵琶湖と京都盆地、岩倉、大原などを展望

16:00 八瀬方面へ下山開始、宝ヶ池から京都バスにて岩倉へ

18:00 打ち上げ@水野邸

 報告

まずは出町柳駅にほど近い鴨川の右岸に集まって概要の説明をします。

概要説明の様子。

この地点からは比叡山と大文字山、およびその間の山中越を同時に見通すことができます。

左が比叡山、右が大文字山で、その間の凹地に山中越があります。

上の写真の地形は両側が高く、その間の部分が凹んだ形になっています。この地域は海の底に堆積した砂泥や生物の遺骸の層に、約1億年前にマグマが貫入することによって作られました。比叡山と大文字山の山頂の間の一帯にマグマが冷えて固まった花崗岩が露出しています。マグマの高熱によって周辺の堆積物は熱され、固い変成岩のホルンフェルスとなりました。ホルンフェルスの間の部分に存在する花崗岩は軟らかくて風雨に弱い岩石なので、花崗岩が選択的に浸食され現在のような地形になりました。

 

叡山電車で修学院駅に向かい、そこから音羽川沿いに歩いて比叡山の雲母坂登山口から山に入ります。音羽川は軟らかく浸食に弱い花崗岩を削りながら京都盆地に注いでいる川で、周辺の地域はたびたび洪水と土砂災害に悩まされてきました。昭和40年代には大規模な護岸工事が行われ、現在のような三面コンクリート張りの河川になりました。また上流部には巨大な砂防ダムが幾重にも建設され、そのうち最も下流側にあるものを今回見ることができました。

音羽川の砂防ダム。ここから左手に入ったところに登山口があります。

 

砂防ダムの前を通り過ぎて、登山口に入ります。

今回利用する雲母坂は延暦寺の建立以降、千年以上の間人々に利用されてきた登山道です。この地域を構成する花崗岩は軟らかいため人の往来によって削られ、さらにそこを雨水が流れることで浸食が進みました。登山道のある部分は周りに比べ、多いところでは数mも窪んでいます。歴史の長さと、人間活動が自然に及ぼす影響を感じます。

人々の往来によって削られ、周りより低くなった登山道。

 

軟らかい岩石が絶えず削られているおかげで、登山道では新鮮な岩石を見ることができます。登山道の前半は主に花崗岩で構成されていますが、ところどころに時代の新しい花崗岩や安山岩と思われる貫入岩が現れます。

花崗岩(右)と安山岩(左)の境界部分。岩質の違いがよくわかります。

花崗岩の露頭。上は風化が進んでぼろぼろになっていますが、下のように風化の進んでいない、鉱物が原型を留めているものもあります。

 

第54回 京大周辺の自然観察:比叡山の地質と植生#2」へ続く

京都大学自然地理研究会

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