第52回 大気―海流―地形から考える雪の性質と積雪分布

 趣旨

降雪・積雪は地域差の大きな自然現象で、たとえば、たった数km離れた二つの地点で積雪量や雪質が大きく異なることがあります。雪が多様な性質を見せる原因として、大気や海流、その地域の地形などの影響が考えられています。

座学では雪そのものの物理的・化学的性質や、世界屈指の多雪地域である本州日本海側を例に、大気・海流・地形が支配する降雪メカニズムの概要、多雪地域の人々の暮らしなどを学びます。

実習では京都からの日帰り圏内である福井県今庄をフィールドに選び、実際に雪に触れて観察を行います。また今庄に至るまでの移動を通して降雪・積雪の地域差を体感します。

 案内者

  • 瀧口正治(理学研究科)
  • 飯田義彦(アジア・アフリカ地域研究研究科)

 座学の概要

日時

2010年2月4日(木)

場所
京都大学稲盛財団記念館
参加者
9名 (学部生2 [工1;農1]、 院生5 [理1;人環1;AA研3]、 教員1 [AA研1]、 その他1)

 野外実習の概要

日時

2010年2月7日(日)

場所
福井県今庄ほか
参加者
9名 (学部生3 [工1;農2]、 院生5 [理1;農1;人環1;AA研2]、 教員1 [AA研1])
行程
京都駅→(JR琵琶湖線、北陸本線)→今庄駅→(タクシー)→リトリートたくら(昼食)→(タクシー)→今庄街道集落→今庄駅→(JR北陸本線)→長浜駅(到着後、温泉入浴)→(JR北陸本線、琵琶湖線)→京都駅(解散)

 報告

今回は京都から日帰りで行ける日本海側の多雪地域、福井県今庄地域に行ってきました。今庄は京都から見て北東の方角にあり、直線距離で約100km離れています。京都周辺では前日に降った雪はほとんど融けてしまい、都市部では屋根の上や車上にわずかに見られる程度でした。滋賀県に入ってしばらくは京都と同じような積雪でしたが、大津市を抜けて草津市へ入ったあたりから風景は一変し、一面の雪景色になりました。積雪量は5cmくらいでしょうか。

琵琶湖東岸(栗東市付近)の雪景色。

積雪は米原付近でいったん減るものの(それでも田畑は雪に埋もれていました)、北陸本線に乗り換えてからは再び積雪量が増え始めます。

琵琶湖北岸(虎姫町付近?)の雪景色。ガードレールが埋まっています。

 

そして敦賀駅到着。滋賀・福井県境の山を越えると急に雪が減り、敦賀駅では下のようにほとんど積雪はありません。

敦賀駅ホームの積雪。

 

敦賀駅で電車を乗り換え、狭軌の陸上鉄道トンネルで日本最長(2009年時点)である北陸トンネルを通って今庄集落のある盆地へ向かいます。今庄駅のホームは2駅前の敦賀駅とうって変わってホームにまで雪が残っています。

今庄駅ホームの積雪。このホームは現在使われていないようです。

 

このような大きな積雪量の差は、地形の効果によって生じたと考えられます。敦賀駅は海に面した平地にあるのに対し、今庄駅は海から山を一つ越えた山間部にあります。ユーラシア大陸から日本に向かって吹いてきた季節風は、暖流である対馬海流から蒸発した水蒸気を大量に含んで日本列島に上陸します。この風が山に当たって斜面を登ることで雪雲をつくり、山に多くの雪をもたらします。この様なメカニズムで雪が降るため、海側の敦賀よりも山側の今庄で多くの雪が降るのです。敦賀と琵琶湖湖北地域の積雪量の差についても同様のメカニズムで生じていると考えられます。

 

多雪地帯に位置する今庄ではさまざまな雪対策がなされています。例えば今庄駅の駅舎は2階に雪おろし用の出入り口が設置されています。

今庄駅2階に設置されていた雪おろし用の出入り口。右写真、赤矢印の部分です。

 

予定では今庄駅周辺で雪の観察を行うことになっていましたが、駅の売店の方にお話を伺うと南越前町古木地区の「リトリートたくら」でかまくらまつりが開催中とのこと。そこで急遽予定を変更し、タクシーで向かうことにしました。

リトリートたくらに到着。

かまくらまつりのメイン、立派なかまくら。

 

施設の中にはこの地域の特産である蕎麦や、アカタン砂防堰堤群とよばれる砂防ダムに関する展示がありました。アカタン堰堤はこの地域を流れる田倉川に注ぐ赤谷川の上流に作られた9基の砂防ダムで、1897年の完成以来100年以上もこの地域を守り続けています。2004年に国の登録有形文化財に指定されたこのダムは実は長い間忘れ去られており、1998年に地元の方々の調査によって再発見されたという曰くつきの建造物です。今回は雪のため向かうことはできませんでしたが、ダムのある辺りはふもとから見えているそうです。

施設周辺の雪景色。奥に見える山にアカタン砂防堰堤群が設置されているそうです。

 

まつりではかまくらの他に餅つき体験も行われていました。

第52回 大気―海流―地形から考える雪の性質と積雪分布#2」へ続く

京都大学自然地理研究会

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