Akira TAKADA=

インタビュー


N: まず、高田さんの現在の研究内容について聞かせて下さい。

高田(T): 南部アフリカのサンを対象として、彼らの社会的相互行為の特徴について研究しています。子供の時から大人までという流れで「発達」を考えようというのが出発点なのですが、なにせ大きなテーマなので、なかなか全部をやることはできていなくて、実際には、彼らの子育ての特徴とか、環境をどんな風にみて生活しているのかというようなトピックを選んで、それらを少しずつ深めている段階です。

N: 「社会的相互行為」って、もう少し簡単に言うとどのようなことですか?

T: コミュニケーションというのとかなりオーバーラップします。要するにinteractionだから、「こっちが何かやったら、向こうも何か返してくる」ということ。人間同士だったら当然あるよね?そういうの。自然との関係だったら「社会的」というのは付けないことが多いけれど、でも人間が自然に働きかけたら、自然が変化して、それが結果的には人間の生活を変える、みたいなことも起こり得るでしょ?例えば、牧畜民のovergrazingによって草が無くなってしまったら、それによって彼らの生活が変わってしまうとか、あるいは狩猟採集民にしても、獲物を全部採り尽くしてしまったら生活を変えざるをえない(どんどん移動しながら生活するとかね)。だから、そういう意味で広く「相互行為」というのを捉えていて、そのなかで特に先程述べたようなテーマ(トピック)について現在調べています。

N: 調査地はボツワナとナミビアの2カ国ですが、それはどのように選んだのですか?

T: もともとは、指導教官が田中二郎さんだったので、最初は彼が調査していたボツワナのハンシー地方に行くことになったんです。だけど、ボツワナでは調査許可がなかなか取れなくて、実はずっと調査地難民をしていたんです。それで、当時ナミビアに行っている人がまだ少なかったこともあり、自分で開拓してみたら?って言われて、ナミビアに行ってみることにしました。そこでしばらく調査をしていたら、運良くボツワナでの調査もできるようになって。で、最初に苦労しているから、ちょっと貧乏根性が出て(笑)やっぱ両方一生懸命やらな!と思って、ずっとこれまで両方やっているというわけです。まぁ隣り合った国だし、サンと農牧民が隣り合って暮らしているっていうのは共通しているので…。

N: ではなぜ研究者の道に入られたのか、そのきっかけを教えて下さい。

T: 結構迷っていた時期もあります。文学部の修士課程に入る前と、入ってからしばらくというのが一番迷っていた時期で、でもその頃にわりとお世話になっていた先生が、とても面倒見の良いというか面白いなぁという感じの先生で、こういう生き方も結構いいな〜と思ったので、そこからずるずると…。

N: じゃあ学部の時には研究者になろうとは全然考えていなかったのですか?

T: わりと大学院に行く人が多い(半分位の人が院に行くような)学部(京都大学文学部)だったので、院に行くか、就職か、そのどちらかという感じの選択肢が雰囲気としてはありました。それなりに迷ったけど、院に行くということが選択肢としては小さくはなかったかな。

N: では、アフリカについて研究したいと思ったのはいつ頃からですか?

T: いや〜厳しいこと聞くな(笑)半分偶然なんだけど、ここ(アフ研)の募集があったから。それもあるけど、でも、京大にいたから、「アフリカ研究者」っていう漠然としたイメージは持ってたのね。なんか怪しい人達が…みたいな(笑)。それまではあまり積極的に関わりを持ってはいなかったけれど、わりと面白そうやなとは思っていて。で、入ってみてどうなるかな?と思っていたら、現在までずっと続いているというわけです。

N: ちなみに高田さんの院生時代ってどんな感じだったのですか?

T: 大学院時代って言っても、まぁ今もなんか半分続いてるみたいな感じなんやけど(笑)フィールドを行ったり来たりして、あっという間に経ってしまったっていう感じはします。特に、2つの調査地をほぼ似たような時期に始めたので、1つの調査地に慣れるよりも倍ぐらいの時間がかかっていると思う。そんなことをしているうちにここまできてしまいました。

N: 心理学専攻から人環のほうに移られたのはどうしてですか?

T: アフリカ地域研究専攻に入ってからは、自分の専門は人類学って言ってるんだけど、心理学の中ではわりと近い分野ではあるのな。ただ、フィールドワークをするというのは心理学の中ではすごくマイナーな分野なので、ずっとフィールドワークがやりたかった僕は、どうせやるならどっぷりとフィールドワークをみんながやっているところがいいかな〜という感じで移りました。だからアフリカにももちろん憧れはあったけど、その前提にフィールドワークへの憧れみたいなほうが最初は強かったかな。

N: では次に、この大学院の魅力と特色について教えて下さい。

T: 特色としては、フィールドワークをすごい前面に出しているのが最大の特色で、かつ、それをサポートしていると思うのね。世界中の色んなフィールドワークをする大学の研究室とか講座とかあるけど、その中でもかなり全体をあげて学生を応援しているかんじは強いとこだと思う。それは制度としてもそうだし…。

N: それは日本ではあまり他の研究科には無い特色だと思うんですけど、海外でもそうなんですか?

T: 海外でもそうじゃない?こんなに学生が自由にフィールドワークをできるところ、かつ行かせてくれるところってそんなに無いと思うけど。それが特色でもあり魅力でもあるかな。あと、教員はどうか知らんけど院生は結構強烈な人がたくさん集まっていて、楽しいんじゃないですか?(笑)

N: 私、実はここに入ってきて、自分はよっぽど普通だと思いましたもん(笑)。

T: みんな思ってるけどね(笑)そこがすごいところで…。まぁでもやっぱり、結構関わり方の強い人が集まってるから、かつ、わりとあまり無い専攻なので、個性的っていう言葉はあんまり好きではないけど、やはり個性的な人が集まってるのでは?とは思います。

N: 私は他の大学院に行ったことがないからわからないのですが、やっぱ院生同士の関わりは強いほうなんですかね?学年を超えて。

T: 強いんじゃない?というのも、実際にアフリカに行ったりして一緒にしばらく生活をするような機会がわりと頻繁にあるから、そういう意味では関わりが強くなりやすいのではないでしょうか。

N: 別にアフリカに一緒に行かなくても、フィールドが同じ国・地域の先輩が、色々相談にのってくれたり面倒をみてくれたりしますもんね。ちなみに、高田さんはどのような学生を期待していますか?

T: フィールドワークって自由度が高いのが特徴だと思うので、自分が自分で面白いと思うことを見つけられる人にとってはすごい楽しい仕事だと思う。だからそういう人が入ってくるとというか、入ってきた人はそういうことを意識したほうが良いんじゃないかなと思います。

それと、フィールドワークってかなり長い時間をアフリカで過ごすわけやんか?たぶん物理的に長いだけじゃなくて、人生の中でもすごい転機になり得る大事な時期。で、そこに何年も住んでしまってやる研究ってそんなに無いと思う。悪く言ったらワークホリックな分野だと思うんだけど、自分の生活も含めて研究って言ってしまうところが地域研究にはあるから、研究自体も生活として楽しめる人というか、そういう(研究に対する)姿勢みたいなものを持っていると良いんじゃないかなと思います。なんかこう、仕事とプライベートって割り切りにくい分野じゃないですか。

N: これからのアフリカ地域研究については、どうお考えですか?

T: 地域研究って何でもできるのが良いところだけど…一人一人の思う地域研究っていうのを推し進めていったらいいなっていうのが一面にあって、でもその反面で、調査に行って目にする問題ってすごくあると思う。例えば貧困の問題とか、エイズの問題とか。それがまさに一刻を争う問題であるから、「地域研究」っていう以上はそういうものに対して何か応えていければいいと思います。というかやらなあかんのかなとは思います。

N: では高田さんが考える「地域研究」って何ですか?

T: そんな質問する?(笑)人によって考え方があるかもしれないけど、やはり実際に現地に行って、生活をして、向こうの人と関わって、というのが出発点だと思うんですよね。もちろん色々な研究の分野があるし、色々と勉強したほうが良いこともたくさんあって(それが不足してるなって自分で思うときもあるんだけど)、それをやるのは必要だけど、やっぱり最終的にはフィールド経験っていうのが地域研究のミソじゃないですかね。

N: それでは、もし仮に他の学問分野がフィールドワークを積極的に取り入れた場合、地域研究の位置付けはどうなるのでしょうか?

T: 良く言えば、地域研究にはより可能性があるんじゃない?というのも、あらかじめはっきりとした分野とかディシプリンがあったら、問題設定自体がフィールド経験よりも先にあるという印象が強いけれど、そうではなくて「問題設定をすることを許す」というのは、やはり地域研究の特徴かなという気がしますけど。

N: なるほど…名言いただきました。では次に、高田さんの「座右の書」、あるいはお気に入りの本を教えて下さい。

T: 一冊に絞るのはなかなか難しいな…。Gordon, Robert J. The Bushman Myth: The Making of a Namibian Underclass. Westview Press, 1992. を挙げておきます。著者はナミビアで育った白人で、自分が育つ過程でブッシュマン研究がどんどん盛んになったんだけど、そのイメージに違和感を持って色々な資料を調べて、そのイメージを書き換えようとした、というか書き換えることを通じて、ブッシュマンって一体何?という問いかけをした本で、色々な意味で面白いです。研究者ってイメージ作りに貢献しているというか、確信犯でやっているというか、そういう面もあるやんか?だけど、当事者でもないし完全に部外者でもない、つまりブッシュマンは実際に自分が育ってきた過程で部分的ではあるが見聞きしている人達っていうスタンスにある著者の視点というものがこの本には反映されていて、色々考えさせられる一冊です。昔一度読んだんだけど、最近本人に会って、もう一度ちゃんと読もうと思っている本です。ちなみに、学生時代にアフリカに関して一番最初に読んだ本は、田中二郎さんの『砂漠の狩人』(中公新書、1978年)です。

N: ちなみに、研究においてこれだけは大切にしているみたいなことってありますか?

T: え〜あるかな…?何かあるの??

N: 私ですか?私はまだ駆け出しですから(笑)。

T: いやいや、みんな駆け出しだと思ってるんちゃう?死ぬまで(笑)。

何でもしんどいと思ったらしんどいから、できるだけ楽しいと思うほうがいいんじゃない?フィールドワークもそうやし、今のこの仕事とかもそうやけど。なるだけ楽しそうなところをみてやっていったらいいんじゃないでしょうか。

N: 楽しくないんですか?(笑)

T: そう思う時もあるけど(笑)なるべくそっちにいかないようにしてる。かといって楽しい方ばかりに流れていってもマズイような気もするけど。しんどいことの中にも楽しいことを見つけるというのがきっと良いんでしょうね。いや〜まとまったな!

N: まだ勝手にまとめないで下さい。高田さんは尊敬する研究者っていますか?

T: 挙げていくときりがないんですけど、一人は、研究者の道に入るきっかけを与えてくれた木下冨雄先生(京大の元心理学の先生で、現在は甲子園大学の学長)ですかね。木下さんは何でも楽しそうにしてたな、確かに。授業も会議も、なんか楽しくなさそうなことをやっているのに楽しそうでいいなと思ってた(笑)。甲子園と言えば、木下さんはすごい阪神ファンで、学会であろうが会議であろうが常にスポーツ新聞を持って歩き回っていました。で、阪神戦の副音声の解説とかによく呼ばれて、好き勝手なことを言ってたりして。

N: 私から見れば、ここの先生方はみんななんか楽しそうですけどね(笑)。それはいいとして、高田さんはお休みの日とかって何してるんですか?

T: 最近は忙しくて休みの日も仕事してます。仕事が無かったら何するかな…風呂屋に行くね!銭湯が好き。温泉も好きだし。ちなみに母親の実家は温泉旅館でした。あと、絵を描くのが趣味かな。風景画よりは、人間を含めて動物とか虫とか、生き物をよく描きます。アフリカでも、フィールドワークに行き詰まったらそういうことをよくしている(笑)。最近はちょっと日本画を習いたいなと思っています。日本画って絵の具に使っている素材が多様だから、色だけじゃなくってテクスチャーとか光の当たり方による見え方とかが様々で面白そう。

N: なるほど…フィールドに行ったら、絵を描けるほうが絶対良いと思うので、私は上手に描ける人が羨ましいです。

T: 確かにコミュニケーションがとりやすいよね。特に子供とかは描いてあげると喜ぶし。

N: では最後に、ご自分の研究のこれからについて、少し聞かせて下さい。

T: 大学院時代にやったフィールドワークがまだ整理しきれていないので、それはちゃんとやりたいです。幸い同じような環境で続けられているわけやから。研究テーマも希望的テーマで、まだこれをちゃんとやっていると言うにはちょっとおこがましいので、一つ一つやっていきたいですね!

N: 色々と率直に答えて下さってとても参考になりました。ありがとうございました。

インタビュアー:2回生N
(2005/06/24)