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(本稿は,『アフリカ研究』39 (1991年発行) pp.59-64 に掲載されたものを,日本アフリカ学会の許可を得て再録したものです。)

フィールドにおける太陽電池の利用について

はじめに

 私は,ザイールにおける農耕民調査で太陽電池を利用しているが,最近その経験について尋ねられることが多くなった。小型ビデオカメラ,ノートパソコンなどのコンパクトな電気機器の発達にともなって,フィールドで太陽電池を使おうとする人が増えているのである。そこで,本誌上を借りて私の使用体験を書いておけば,今後のアフリカ研究に役立てていただけるのではないかと考えた次第である。
 なお,私の持参したシステムは京セラ株式会社から購入したものであり,本稿を書くにあたっても,同社から技術的な資料を提供していただいている。

写真1: 私の家の屋根に太陽電池パネルを設置している

T.太陽電池及び周辺機器

1.太陽電池と蓄電池

 太陽電池とは,光エネルギーを電気エネルギーに変換する半導体素子のことである。「電池」という名がついているものの,電気エネルギーを蓄える機能は持っていないので,効率的に利用するにはうまく蓄電池と組み合わせてやる必要がある。(図1にシステムの一例を示す。)

図1: 太陽電池システムの構成例

1.1.太陽電池パネル

 表1に,京セラ株式会社から発売されている代表的な太陽電池モジュール(パネル)の仕様を示す。[注: このデータは本稿執筆当時(1991年)のものである。現在の製品の使用は京セラ等,太陽電池を発売している会社に問い合わせていただきたい。]

表1 太陽電池パネルの仕様 (京セラの製品)
型式LD361C24LA361J48
出力 (W)24.048.0
最適動作電圧 (V)16.716.7
最適動作電流 (A)1.442.88
縦 (cm)53.598.5
横 (cm)44.544.5
厚さ (cm)3.63.6
重量 (kg)3.23.2
価格 (円)6200098000

基板は多結晶シリコン素子からなっており,変換効率は約13%である。頑丈に作ってあるので,戸外で風雨にさらされても故障するおそれはまずない。耐用年数は約30年といわれている。

図2: ケーブルの設置

 太陽電池の発電量は,パネル面を常に太陽光線に垂直に保てば最大になる。しかし,フィールドで一日中太陽を追ってパネルを動かし続けるのは,実際上不可能である。パネルを固定して平均の発電量を最大にするには,水平位置から南向き(南半球では北向き)に,その地点の緯度分だけ傾けて設置すればよい。
 パネルから屋内にケーブルを引き込む場合,雨水がケーブルを伝って流れこみ,電気機器を濡らしてしまうことがある。これを避けるには,図2のようにケーブルの一部をたるませておけばよい。

1.2.蓄電池

 フィールドでの太陽電池利用でネックになるのは,パネルの発電能力ではなく,蓄電池の容量であることが多い。いくら大きなパネルを持っていても,小さな蓄電池ではすぐに満充電になり,パネルはあとの時間を無為に発電していることになるのである。したがって,パネルに相応の容量の蓄電池を用意することに留意しなければならない。
 蓄電池の容量は,Ah(アンペア時)であらわされる。1Ahとは1Aの電流を1時間にわたって供給できる能力を示す。したがって,1Ahで電圧が12Vの蓄電池は,12V×1A=12Wの電力を1時間出力できることになる。
 蓄電池の種類は,フィールドでの入手のしやすさ,容量の大きさなどの点からすると,自動車用バッテリー(以下「バッテリー」と略記する)がもっとも便利である。ただし鉛蓄電池なので,重く,運搬時に希硫酸が漏れるおそれがあるなどの問題がある。車でフィールドに入る場合は,車のバッテリーに太陽電池の入力をつなぎ,機器への出力もそこからおこなうという方法をとることもできる。

図3: バッテリー端子のヒューズ

 小規模なシステムには,シール型鉛蓄電池が便利である。この電池は,原理は普通の鉛蓄電池と全く同じだが,全体を完全に封印してあり,傾けても液漏れのおそれがない。日本では湯浅電池工業,日本電池のものが種類も多く,手に入りやすい。
 バッテリーは出力端子がショートした場合,爆発することがある。このような事故を防ぐために,図3のように,端子のすぐ近くにヒューズをはさんでおくことが望ましい。
 またバッテリーは,放電しきってしまうと性能が低下する。電圧をチェックするためには,テスターを持参しておいた方がよい。最近は見やすいデジタル式のテスターが市販されている。

1.3.太陽電池と蓄電池の大きさ

 フィールドにおいて必要な太陽電池パネルと蓄電池の大きさは,次の式で知ることができる。
 計算には次のような数値が必要である。
K: 太陽電池出力係数
B: 蓄電池容量係数
PL: 一日あたりの負荷消費電力量
BV: 蓄電池の定格電圧
KとBは,使用する場所の太陽エネルギーの強さにかかわる係数である。
必要な太陽電池の出力PS(W)は,
PS = PL×K/24
また蓄電池の容量BA(Ah)は,
BA = PL×B×1.5/BV
で求められる。
 実例をあげて計算してみる。ここでKとBは日本国内で最もよい条件の値,K = 12.5, B = 15を用いておこう。(アフリカでは両者ともこれよりよい(小さい)値になるものと思われる。)PLは25Wの電気機器を毎日5時間使うとして,PL = 25×5 = 125Whとする。BVは蓄電池は自動車用バッテリーを用いるとしてBV = 12Vとする。
太陽電池の出力は,
PS = PL×K/24 = 125×12.5/24 = 65.1(W)
蓄電池の容量は,
BA = PL×B×1.5/BV = 125×15×1.5/12 = 234.4(Ah)
となる。
 すなわち,パネルは出力48WのLA361J48(表1)では若干足らず,蓄電池は大型(70Ah程度)のバッテリーを3個程度並列につながねばならないということである。しかし,この計算式は十分すぎるほどの安全係数(どのくらい無日照が続いても電力を供給し続けることができるかの指数)をとって作られたものであり,実際にはパネル,蓄電池ともこれより小さいものを使ってもさほど支障はない。
 私自身の使っていたシステムを紹介しよう。太陽電池パネルは最大出力約40W(大きさは約1m×50cm),蓄電池は70Ah, 12Vのバッテリーというものであった。これを用いて,携帯用蛍光灯,ラップトップコンピュータ(NEC PC-98LT),自作のニッカド電池充電器(9本同時に充電する),ビデオカメラ用ニッカド電池充電器を動かした。ビデオカメラ用ニッカド電池の充電には電力がかかり,晴天時でもバッテリーの電圧が11V台に低下することがあった。しかしそれ以外の場合は,数時間の日照でバッテリーはすぐに満充電になり,電力不足で困ることはなかった。

1.4.コントローラ

 太陽電池パネル,バッテリー,負荷の三者を直結した場合,次のような不都合を生じる場合がある。@太陽電池の出力電圧が,バッテリーの充電電圧より高すぎる。A夜などに太陽電池の起電力がなくなった時,バッテリーから太陽電池に逆方向の電圧がかかり,素子に悪影響を与える。Bバッテリーが放電しすぎた場合,寿命が短くなる。
 このような不都合を避けるために,三者の間にコントローラと呼ばれる回路をはさむのが普通である(図1)。
 私の場合,コントローラは,太陽電池購入時に京セラに製作してもらった。値段はシステムの大きさと,どの機能を付加するかによってさまざまである。

2.インバータ,DC-DCコンバータ

 コントローラを電気機器につなぐには,出力(直流12V)を変換してやる必要があることが多い。
 インバータは,直流を交流に変換する装置である。最近では,直流12Vを交流100Vに変換するものが,自動車用品店などで簡単に手にはいる。これを使えば,交流100V用の機器をバッテリーで動かすことができる。ただしワット数の大きい機器を使う場合,インバータの容量を越さないよう注意が必要である。また機種によっては,変換時にかなりエネルギーのロスがでる。
 DC-DCコンバータは,直流を違う電圧の直流に変換する装置である。12Vを,3V, 6V, 9Vなどに変換するものがあり,大きな電気店などに行けば手にはいる。テープレコーダーなどには直流入力の端子がついているので,このコンバータに直接つないで動かすことができる。ただしメーカーによって,端子の+と−の位置(内側か外側か)が違うので,逆につながないように注意しなければならない。

3.ニッカド電池

 ニッカド(ニッケル=カドミウム)電池は,約300回再充電が可能な小型の蓄電池である。乾電池と同じサイズのものがあり,乾電池のかわりに用いることができる。単1,単2,単3サイズを,それぞれ1600円,800円,400円程度で売っている。
 ニッカド電池の定格電圧は1.2Vであり,乾電池の定格電圧(1.5V)よりも若干低い。しかし1.5Vというのは新しい乾電池での値であり,乾電池用の機器は,1.5Vよりも電圧が低下した状態でも作動するようになっている。したがって,ニッカド電池を入れても問題はないのである。

図4: ニッカド電池充電回路

 ニッカド電池の充電器(100V交流用)は,電気店で手にはいる。フィールドでは,これをインバータにつないで用いることができる。しかし,何十本も一度に充電するような場合,充電器は自作する必要がある(図4)。このとき,充電電圧は1.2Vよりも少し高め(1.3〜1.4V)に設定しなければならない。ただし,あまり高い電圧をかけると,電池が過熱して危険である。また,あまり長時間充電すると過充電になり,電池の寿命が短くなる。(なお,乾電池は破裂する恐れがあるので,絶対に充電してはならない。)
 ニッカド電池は,完全に放電しきってない状態から再充電すると,容量が低下してしまうという性質をもっている。したがって,いったん使いはじめたら,完全に放電しきるまで使った方がよいのである。(鉛蓄電池の場合は逆に,完全に放電してしまうと容量が低下する。)このため,使いきる前の電池をわざと放電させ,空にするための「放電器」も市販されている。

U. 使用可能な機器

1.蛍光灯

 携帯用蛍光灯には,内蔵のシール型鉛蓄電池を,付属の小型太陽電池パネルで充電するというものもあるが,手に入りにくい。最近は,乾電池用のものがたくさん発売されているので,それにニッカド電池を入れて使うのが便利だと思われる。また,インバータを介すれば,普通の机上用の蛍光灯を使うこともできる。
 大容量のバッテリーがあれば,20〜30W程度の大型蛍光灯を使うことができる。この蛍光灯はインバータを内蔵しており,直接コントローラの出力につなぐだけで点灯させることができる。京セラで購入した場合,システム全体(パネル50cm×1mを2枚,コントローラ,ランプユニット(20W),ケーブル。バッテリー,蛍光灯ランプは含まない。)の定価は38万円である。このシステムでは,赤道直下のあまり曇らない場所で,毎日8時間点灯することができる。
 なお,蛍光灯のランプが切れることがあるので,長期に滞在する場合は予備を用意していった方がよい。

2.ニッカド電池利用のもの

 乾電池で動く機器は,ほとんどニッカド電池でも動かすことができる(ビデオカメラは例外である)。なお,ニッカド電池の寿命は,同じ大きさのアルカリ乾電池の1/3程度である。
 私の場合,短波ラジオ,懐中電灯,テープレコーダーなどにニッカド電池を用いたが,電池がなくなる心配がないので,たいへん気楽に使うことができた。またザイール・ワンバのピグミーチンパンジー調査基地では,トラッカーの懐中電灯用の電池をニッカド電池に替えてから,重いアルカリ乾電池を大量に持って入る苦労がなくなったということである。

3.ビデオカメラ

 フィールドでポータブル・ビデオカメラを用いて撮影をおこなう場合は,乾電池か,カマボコ型のビデオカメラ専用ニッカド電池を使うことになる。
 乾電池を用いる場合は,アルカリ乾電池以外は使うことができない。ビデオカメラは消費電力が多く,容量の小さい電池はすぐに消耗してしまうからである。
 専用ニッカド電池の充電は,充電器を介して,100〜240Vの交流電源用のプラグと,12Vの直流電源用のプラグ(シガレットライター用の端子のこと)の二つからおこなうことができる。太陽電池システムからの充電は,インバータがあれば,それに交流電源用のソケットをつなげばよいが,インバータがない場合は,シガレットライター端子を分解してコントローラの直流出力に直結する必要がある。(+−を間違わないように。)
 充電にはかなりの電力を必要とするので,日が照っていて,太陽電池からのチャージがおこなわれている状態でする方がいいようである。同様に車のシガレットライターから充電する場合は,エンジンをかけておかないとバッテリーがあがってしまう恐れがある。

写真2: コンピュータへのデータ入力

4.コンピュータ

4.1.ハードウエアの選択

 アフリカでパソコンを使うなら,(1)持ち運びに便利,(2)消費電力が少ない,(3)突然停電が起こっても作動を続ける(ニッカド電池を内蔵しているから)などの点から,ノート型を選ぶべきであろう。
 パソコンを太陽電池で動かす場合は,インバータを介した方が簡単である。(直流電源で直接動かすことも可能だが,改造が厄介である。)ノートパソコンは,インバータの出力波形が多少汚くても,ACアダプタで交流を直流に変換しているので,問題なく作動する。
 ノートパソコンの代表的な機種には,NEC 98ノート,EPSON PC386ノート,東芝 ダイナブック,IBM PS/55ノートなどがある。98ノートとPC386ノートではPC-9801用のソフトが,DynaBookとPS/55ノートではIBM PC用のソフトが走る。アフリカで使われているパソコンはほとんどがIBM PC互換機なので,現地の研究者との共用を考える場合は,後者を選んだ方がよいだろう。なお,ハードディスクはついていた方が当然便利である。
 プリンタはフィールドでは必要ないと考える人が多いが,私は,パソコンを持参するなら,プリンタも一緒に持っていくべきだと考える。データを整理していると,必ずプリントアウトして眺めたいという欲求が起こってくるものだからである。最近は小型のプリンタがいくつも発売されている。
 フロッピーディスクは,大きな都市なら手にはいるが,値段は日本の数倍する。

4.2.機械とデータのセキュリティ

 アフリカでパソコンを使っていて一番心配なのは,機械やデータが壊れることである。
 まず問題になるのは,電圧の変動である。私もナイロビの学振事務所で仕事をしているとき,停電でラップトップコンピュータのデータが消えて,泣かされたことが何度もある。その点,ノートパソコンは停電に強いので心強い。
 高温多湿な地域で注意すべきなのは,カビである。私のフィールドは熱帯多雨林の真中であったが,調査の後半に,次々とフロッピーディスクが壊れはじめた。不審に思って表面をよく観察すると,点々とカビが生えていたのである。また私自身は経験がないが,回路の基板にカビが生えることもあるらしい。(ただしハードディスクは密閉されているので,カビで壊れることはないものと思われる。)フロッピーディスクやパソコン本体は,カメラと同様に,使わない場合はシリカゲル,防カビ剤と一緒に密閉して置いておくべきである。
 重要なデータは,常にハードディスクだけではなく,フロッピーディスクにも二重,三重にバックアップしておくべきである。ハードディスク全体も,バックアップツール(オーシャノグラフィーなど)で定期的にバックアップしておいた方がよい(これらはアフリカに限った話ではないが)。なお,フロッピーディスクは空港のX線検査で壊れる心配はない。

謝辞

 本稿を書くにあたって,京セラ株式会社ソーラーエネルギー事業部,春本正智氏にお世話になった。記して感謝したい。

文献

桑野幸徳,1985.『太陽電池とその応用 −エレクトロニクス製品から電力用発電まで−』 パワー社.
谷辰夫,1989.『ソーラ・バッテリー 発電のしくみと使い方』 電気書院.
丹羽一夫,1989.『電池の使いこなしテクニック』 日本放送出版協会.